現在(大陸新暦310年)より5年ほど前、リーゼン地方である出来事が起こりました。
今なおカルゾラルとの睨み合いを続ける"鉄壁の要塞"レガリア王国の防衛戦に、1人のドレイクが亡命してきたのです。
無論、即座に拘束され投獄。世迷い事を唱える蛮族は、処刑されるものと誰もが思っていました。
しかし、偶然にも前線へと出陣していたレガリア王、"鉄人"ザヴィーエ・ボアギュエールがここに登場します。
彼はドレイクに面会し、その名と亡命の理由を問います。それに応えるに、カルゾラルの惨状が少しずつ明らかになりました。
曰く、民は使い潰される。物資や練度が足りずとも前線へと投入され、死ねばそれまで、生還すれば次の戦場へ。
曰く、従わねば殺される。ドレイクの棲む地区を管轄する首領格は同族内にも暴虐を揮い、民は疲弊している。
曰く、兵役に見境が無い。兵が少なくなって来たと見るや、女子供、老人すら見境無く兵として使い潰す。
「この状況を打破したいが、我々にはもはや力と言える程も残されてはおらず、死を待つのみだけだろう。
故に恥を忍んでお願いする、私は如何なる処分も拒まぬが、何卒、かの邪知暴虐の首魁を討ってはもらえないだろうか」
かの高貴かつ傲慢で知られていたドレイクと言う種族が、衆人環視の中で人族の王に額を地に擦りつける。
それほどまでに、彼らは疲れ果て、そして追い詰められていたのでしょう。
そこでザヴィーエ王が取った判断は、驚くべきものでした。このドレイクを賓客として招き入れると言うのです。
無論、反対も多く起こります。それらが覆ったのは、彼から得た情報を元に、カルゾラルの一角を攻め落とした時でした。
ドレイクを信用したザヴィーエ王、誇りを捨ててでも人族に助けを求めたドレイク。
戦が一段落した後も、ザヴィーエ王は亡命した蛮族たちを見捨てる事なく、ある程度の自治を認めた上で居留する事を認めます。
しかし、そこで1つの問題が起きました。想像以上にカルゾラルより流出する蛮族が多かったのです。
レガリアにとっては、カルゾラルに対する情報戦と言う面において有利ではありますが、中にスパイが居ないとも限りません。
そこで、リーゼン地方内での同盟を組む、デュボール・ミラボア両国へと相談を持ちかける事になります。
そこで如何なる交渉があったかは定かではありません。
ですが、結果として、両国ともに首都からある程度離れた場所に、自治区を作る事になりました。
ここはその時に作られた集落が発展して出来た、小規模な町です。
当初はミラボア国民からの目も厳しく、名も無き蛮族自治区とだけ言われていましたが、ようやく区名を名乗る事を許されました。
人族と蛮族が交じり合う、結合と混淆の町。我々はこの町を、『エーテル自治区』と名乗っています。
『自治区ガイド』
|
総面積
|
約1200ヘクタール
(南北約3km、東西約4km)
|
人口
|
約3,000人(人族70%、蛮族30%)
(行商人、冒険者など含まず)
|
統治体系
|
王による任命区長による自治
|
|
現在の区長
|
ラックス・ハイネス(コボルド)
|
宗教
|
第一の剣主体、一部信仰禁止有
|
|
言語
|
交易共通語、汎用蛮族語
|
食糧・水
|
食糧自給率8割、公共水道設備利用
|
|
輸入品
|
金属、石材、鉱物、食料品など
|
輸出品
|
工芸品、魔術製品、傭兵など
|
エーテル自治区は4年程前にミラボア王国郊外に作られた混合自治区である。
本来予定にない建設であった為、若干雑然とした町並みとなっているが、それもまた町のウリとしている。
主な産業は蛮族の文化と技術を取り入れた工芸品や魔術製品、そして冒険者の宿による労働力排出である。
新興自治区としては早く発展している場所であり、他国からの観光客が訪れることもある。
その為、町の保安と環境美化に力を入れているが、まだ荒削りである事は間違いなく、これからの洗練が期待される。
-トラベルガイド・るるぶミラボアより抜粋-
『エーテルの町並み』
|
エーテル自治区は大通り通りである「フクロウ通り」を軸として、切り分けるように街が構成されています。
枝葉のように広がるそれぞれの通りにも特徴があり、店屋や住宅、ギルドなどがそれぞれに散らばっています。
『フクロウ通り』
中央に一本の樹が植えられた広場を抱える、エーテル自治区のメインストリートです。
食料品店やレストラン、日用品店などのいわゆる「一般人向け」な店が立ち並ぶ通りになっています。
また、多くの教会はこの通りに支部を置いており、人族、蛮族問わず様々な人たちが礼拝に訪れるそうです。
『ニワトリ通り』
一般人の住宅街や、衛兵の詰所などが集っている通りです。外壁沿いには見張り台もあり、住人の安全を守っています。
エーテル自治区議会もこの地区に存在し、役所代わりの存在になっていたりします。
『シラバト通り』
ミラボア本国から出向してきた魔術師ギルドや錬金術師が、思い思いに工房や組合を作っている魔法地区です。
駆け出しからいっぱしまで様々な者が居を構えており、かの"魔神狂"も訪れる事があるとの事ですが、真偽は不明です。
『ハヤブサ通り』
武具屋や冒険者の店、酒場が集う、傭兵や冒険者御用達の通りです。荒事も多少起こりますが、最も自治が成されています。
「向こうが喧嘩を売らない限り堅気には手を出さない」という暗黙の掟が通っており、一般人でも気軽に訪れる事ができます。
ライダーギルドや大型用品店など、冒険者以外の人々が扱う場所が多いのもその理由の一つでしょう。
『オオワシ通り』
他所の地方から来る行商人や旅人のための、宿屋や卸売り商が主に店を構えている通りです。
華やかとまでは言えませんが、様々な人種が集まる通りでもあり、出店や露店が出ている事もあり、いっとう賑やかな場所です。
ただ、少し路地に入ると『カラスの辻』が近いせいか、治安はあまり良くありません。気をつけましょう。
『スズメ通り』
エーテル自治区における第一次産業、農業や畜産に携わる人々の為の居住区です。
家屋は疎らで、その代わり田畑が顔を見せています。場所によっては牛舎や馬宿と言った、家畜の姿も見られるでしょう。
『カラスの辻』
いわゆるひとつのスラム街です。自治区と言う都合上、どうしても発生する爪弾きにされた者が集う場所になっています。
治安はいいとはいえませんが、彼ら独自のルールや掟が敷かれているらしく、外の地区に被害が出る事は少なくなっています。
しかし、あまり積極的に踏み入りたい地区とも言えない場所でしょう。
噂では、影に隠れて「闇夜に鴉」と呼ばれる盗賊ギルドが存在していると言われていますが、真偽は定かではありません。
『施設紹介』
|
バルドルの鍛冶工房
戦士を引退したダークトロールのバルドルと、5人のドワーフの刀剣鍛冶が運営する工房。
蛮族の魔剣を参考とする、人族社会では珍しい種類の武器や防具を鋳造している。
通常販売している武具こそ量産品だが、素材の持ち込みや魔剣化などのオーダーメイドも受け付けている。
彼らが作った魔剣は、発注したその者にしか振るえない強力なものになると言われ、輸出品の一角を担っている。
シュレッサー商会ミラボア自治区支部
レガリア王国首都、マントワーズに本拠を構える、シュレッサー家がミラボアに開いた支店。
瓶のフタからマジックアイテム、果てには竜の肝までと言う手広い品揃えがウリである。
支店長をしているのはシュレッサー家の長女だが、神官も兼任している為、その経営は代理支店長が主に行う。
だが、その弟も含め冒険者登録しており、それによるコネクションと収集品の手広さは一見する価値がある。
エーテル自治区議会
エーテル自治区を運営する自治会員たちの議会。運営に関する話題や侵攻への対策などを決議する。
区長=自治会長となるのは、基本的に"ミラボア王"イクセル・イェンネベルトによって選ばれた人物である。
議席は各商会と国から派遣される代官、合わせて20人前後によって構成されている。
海千山千の商人や役人達を相手にひとつにまとめ上げるのも、区長の役割である。
"隼の"止まり木亭
3年前にエーテル自治区に出店した、自治区にいくつかある冒険者の宿の一つで、"ハヤブサ通り"の名前を冠する。
その仕事内容は多岐にわたり、近場への護衛から遺跡の探索、筆頭に至っては戦争の助っ人まで引き受ける。
登録者が増えてきた事もあって、増築すると共にリニューアル開店し、新人の登録が増え始めている。
コツコツと実績をためており、自治区においては信頼出来る「何でも屋」的な扱いを受けているようだ。
『最新情報、闘技場落成!』
モンスターズコロシアム
度重ね、エーテル自治区へと殴り込み、辻斬り、腕試しとばかりに侵略してくる蛮族。
それに業を煮やした本国がエーテル自治区のはずれに作った、砦を改造したペンタゴン型闘技場である。
アリーナの中では、場外に影響を出さなければ何をしようと自由。しかし掟(ルール)を破れば、即投獄。
命知らずが集い、生でその戦いを見れる。そんな要素は、すぐに賭けや好事家の格好の的となった。
国が合法的に作った、ある種の外部との窓口。王すら噛んだそれは、最大収容数は1万人規模に登ると言う…。
さらに幻影装置の使用や、ギアスによる制御によって、蛮族たちだけでなく魔物との戦闘も楽しめるらしい。
らしい、と言うのは、まだ出来てから日が浅いせいである。落成式も終わり、果たしてどのような事件をもたらすのだろう。
『自治区が抱える問題』
人族による蛮族の取り込み、宥和策は功を奏し、その文化を取り入れつつ発展しています。
ですが、それによる問題が無い訳ではありません。例えば、治安の問題があります。
人族の領域で1年も暮らしたならば、その社会常識などはある程度身につきますが、新入りはそうもいきません。
蛮族の常識で考えてしまい、住民や観光客とトラブルを起こす事は多々あります。
また、外部からも問題はやってきます。
蛮族からすれば、人族と蛮族が共存していると言うのは非常に目障りであるらしく、時折自治区への侵攻が起きています。
中には衛兵では追いつかない事態になることもあり、危険度は通常の都市に比べ遥かに高いと言えるでしょう。
それら様々な問題を1つ1つクリアして行く事こそが、これからの課題と言えるかもしれません。
-ある日の自治区会議記録より抜粋-
|