記憶がない。
　自分が誰だったのか、何をしていたのか、わからない。

　どうやら獣人にされたようだ。
　朧げながら記憶が蘇る。
　幸運なことに記憶の消去は不完全だったようだ。

　自分は連れ去られた。
　獣人にするために。

　強い仲間が必要になったらしい。
　だから、選定をして自分を選んだと言っていた。

　少しずつ記憶が蘇る。

　――どうやら君が一番強いようだね。

　ああ、思い出した。

　一番強い者は一番最後まで生き残った者。
　
　自分の帰る場所はない。

　既に、自分で。

　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*

　自決する前に復讐だけは何としてもやり遂げねばならなかった。
　なのに、獣化させた者達はいつまで経ってもやってこなかった。

　彼らは忽然と消えていた。
　村を一つ消させ、たった一人の生き残りを獣人に変えただけで。

　あまりにも性質の悪い冗談だ。

　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*　*

　それでも、復讐の機会を窺っている。
　この獣人の姿をさらしていれば、何時かコンタクトを取ってくるに違いない。

　それに賭けるしか、もう手段は残されていない。
　
　俺はここにいる。