11月24日 暦は確認していないが記憶を違わなければこの日だ
こうして遺書を書くようになったことを心苦しく思う。
吉報があったばかりというのにな、
本当に、もう会えないと思うと取り乱した。オレのキャラクター性としては、不遜でカッコつけていたいんだ。偉ぶってな?
しかしだ、たまに愚妹だとか呼ぶのは本位ではないんだぞ?
本当に、大切に思ってるんだ。すごした時間は短かったが、本当に大切に。
少し身の上話をしたいと思う。
私には本当は両親があるんだ、まだ存命だと思う 確かめられないけれど。
8歳ぐらいのときに別れてはもう一度も会っていない。
一人になって私は、他のグラスランナーのように草原を走ることを面倒くさがった。
変わり者と呼ばれていたのは幼い記憶に覚えているよ。
そうして―昨年だったか―私は、エーテルにやってきた。あまり道程の記憶はないな。
ただ、庭に野蒜の生えている家を見つけたんだ。腹をすかせた私は庭中掘り返して齧っていたよ。
そうしたら勝手口から出てきた養母―最後まで、お母さんと呼べなかったのは心残りだ。どうしても実の母を裏切るように思えた―が、
暖かい食事と、一晩の床を与えてくれた。食事の後はチビたちにもみくちゃにされたな。
そういうのが、嬉しかった。暖かくて気持ちよかった。
そのまま居付いてしまった私は―種族ゆえの役得だな―今日まで楽しくやっていたわけだ。
そのうち年長の幾人かが冒険者になると言い出した。
養母は名のある錬金術師であったし、養父にいたっては説明する必要もあるまい。
そういった環境はチビたちに夢を見させたんだな。
危険な仕事だとは分かっていた。でも我の強い幾人かは飛び出していくだろうとも知っていた。
だから私が、居候のオレが下見をしてやろうと思った。
はじめて訪れた宿で、はじめて出会ったのはエルナだったか。
ああいうお人よしで、強いヤツがいる宿なら、任せられると思った。
実際いくつか仕事をして、ベアトリスは喧しいがオレ達のコトをよく考えてくれていた。
マリーもダリもやさしかったし、変わり者だが信頼できる仲間も沢山いた。
本当に楽しくて、もうあの宿に帰れないと思取り乱した。書き直しは出来ないんでな、見苦しい分は読み飛ばしてくれると助かる。
つまり何が言いたいかというとだ、冒険者はこういう商売だ。
養父は何度も何度も「あいつらなら大丈夫だ」と言ってくれたが、現実には、こうだ。
「覚悟はしている。」お前たちは出て行くときにそういったことだろう。事実オレもそうだ。
でも現実に、こういった別れはある。辛いだろうけど。そういうものだと分かってくれ。
幸運にもオレ達は殺されないそうだ。
優秀な戦力だと買われて、奴隷ではあるがいくらかマシな処遇を受けられるらしい。
縛られて生きるのがグラスランナーとして許せるだろうか。だが絶対に自害はしない。
生きてれば、そのうち幸せが見つかるだろうよ。そうさ、楽天的なんだ。オレ達はな。
最後になる。養父養母には世話をかけた。義兄、義姉には迷惑もかけた。
チビたちには健やかに育つよう祈ろう。ギアーチには、絶対守れよ、と。
紙を両面使っても書きたいことは書ききれないものなんだな。いくらでもあふれてくる。
だから最後に、これだけにオレの思いの全部をこめた。
ごめんなさい そして ありがとう