セッション掲示板

　この島に至った漂流者よ。願わくば、お前の残る命運が平和で暖かく、実り豊かであらんことを。
　"楽園"は、そのすべてを保障しよう。

　少しばかり　昔の話をさせてほしい。
　神の声を聞き不死者との戦いに挑んだ父がいた。
　父の後を継ぎ、その魔法の才より貴族たちすらも従えついに復讐を成し遂げた上の兄がいた。
　英雄を恐れた人々の謀略に巻き込まれ死んだ、ただ敬虔なだけの僧侶であった下の兄がいた。
　幼心に何が起きたかを理解しながら、何も出来なかった末の妹がいた。
　母は父が殺された復讐を願っていた。その願いは叶った。上の兄は見事に父の命と尊厳を奪った不死者を討滅した。
　神は復讐を終えた後は自らを律し励むようにと言っていたという。さすれば嵐が晴れるように未来が拓けるだろうと。
　だが結末はどうだ。
　復讐は何も為さないなどとは思わない。その志があったからこそ上の兄はただ励み、そして母の願いと自らの夢を成し遂げた。
　信仰が何も得られないなどとは思わない。その直向きさがあったからこそ下の兄は人々を集わせ、上の兄だけでなく私達の暮らしも支えてくれた。
　父のように志高い人間であろう。
　上の兄のように貴族さえも超える強さを持つ者になろう。
　下の兄のように誰もを思い遣れる優しさを持つ人になろう。
　そんな思いは、あの夜にすべてが打ち砕かれた。
　そのすべてが否定された夜。復讐を為し、抜け殻のようになった母が私を逃がす為に身を挺したのを、今でも昨日のように思い出せる。
　
　復讐しようとも、邪神に縋ろうとも、思わなかった。
　彼らの魂がただ、安らげるようにと、それだけしか思わなかった。
　ゆえに私はこの島を作り上げた。幾年かけてでも、成し遂げようと、それだけを考えて。
　あらゆる魔法、あらゆる奇跡を退け、ただ漂流によってのみ辿り着けるように調節した巨大な魔法陣の内に作り上げた楽園。
　争いなどなく、ただ平和な時が流れるように。いつまでも暖かく、安らぎとともにあるように。飢えも渇きもせぬよう、豊かな場所であるように。
　わずかな種類の生命と多くの植生、そして海と風に流れてくるだろう様々なもの。それだけが、この島の輪廻であるように。
　ここは、墓標だ。亡骸さえなく、その魂すら無かろうが。
　彼らの魂が安らげるようにと、それだけを考えていた。
　もはや時は私を家族のもとに連れて行くことはない。たとえ己の命運が尽きても彼らがいるだろう神の御下などには行けないだろう。
　ならば、私はここを、永劫に守護する者となればよい。
　不死となった身も、記憶も知恵も要らぬ、この墓標を守るという想いだけを抱いて。　例え亡骸も、魂も無くとも。　私が、ここに彼らが眠っていると信じていればよい。

　……だからこそ、私はこの手記を遺す。もしもここに辿り着いてしまった漂流者がいたならば、ただ何もせず、この島で余生を過ごしてほしいと。
　この島は、ただまぼろしのようにだけあるべきなのだ。それでもなお、脱しようと言うなら止めはしない。
　漂流は、この島に入る事は容易でも出る事は至難である。そして──。
　再び、この島に訪れるまでならよいだろう。だが、ここに争いを持ち込もうと言うのなら、再び彼らの死を欲望と衝動で涜そうというのなら。
　永遠の守護者と為った私が、その命ごと喰らってくれる。
　楽園の礎となれるならば、そのような愚か者でも喜ぶことだろう？
　
　改めて、私は祈ろう。
　この島に至った漂流者よ。願わくば、お前の残る命運が平和で暖かく、実り豊かであらんことを。
　"楽園"は、そのすべてを保障しよう。

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タイトル	：置き手紙の内容
投稿日	： 2020/03/16(Mon) 00:20
投稿者	：どんこ
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